山の麓から頂上まで車で登ると、
頂上にぽつんと、小さな展望台がある。
入り口を見上げると、
軽やかに動く白いカーテンが
手招きするように、ゆっくりたなびいている。
石の階段をのぼり、扉を引き、カーテンを手で分け、
部屋の中いっぱいにひろがっているのは、小さなスキー場だ。
晴れた日の雪山のように、
きらきらと光って息をのむほどまぶしい、
白銀の小さな世界。
外は脳がしびれるように暑い。
しびれた脳でただぼんやりと、スキー場を凝視していると、
リフトが動いているのに気づいた。

気づくのに時間がかかったわけは、
動いているのに、ほとんど音がしていないからだ。
耳をこらすと、ほんの微音のモーター音が聞こえるけど
虫と鳥が出す夏の声の方がずっと優勢で、
だから、スキー場は、
今、目の前にあるのに、
見ているのに、幻みたい。
それは
夜行で東京を発ち、
気持ちが追いつかないまま
いつの間にか雪山に降り立った時の感じに少し似ていた。
ここはスキー場で、私はずっとこの時をたのしみにしてきた、と
自分を納得させる感じに。
寝不足が過ぎると、帰るまで幻のまま過ぎてしまい、
正気に戻ったときにはすでに帰りの夜行の中で、
東京に戻り、過ぎ去った幸せな体の記憶の中から、
雪山の光や、温度や、音を思い出す。
見ている時間はわずかでも、
記憶の時間は永遠。
思い出すことができる限り、スキー場はどこにでも現れる。
麓に降りてから、
何度も山を見上げて思い出した。
そして山が見えないところでも、何度も。
山の頂きには雪山があり、
音もなく、リフトが動いている。
「山の頂きへ」/滝沢達史