2011年11月10日

記憶として、残像として



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岡野屋旅館は、勝山を流れる旭川の川端にあって
開業は江戸にさかのぼる。
4年前突然に営業を中止してそのままになっていたその岡野屋を
地元の方々やアーティストが中心となって
再び、あかりを灯した「岡野屋旅館プロジェクト」
事務局の高本敦基さんとは、去年の仕事で知りあいになった。

でも勝山は遠いし、
自分が本当に岡野屋に来ることになるなんて
そのときは想像もしなかった。


現在岡山在住の滝沢達史さんが迎えてくれ、
羽田からご一緒した小川敦生さんと共に岡野屋に到着したのは、夕方。

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晩秋の夕は暮れるのが早くて、
私が短い散歩から戻ったときには手元が見えづらいほど暗く、
ふたりは電球を灯した座敷に座って
背中合わせに展示の準備をすすめていた。
なにかをつぶやいたり、首を傾げたりしながら
ゆっくりと自分自身を岡野屋にしみ込ませ、
居場所を整えているように見えた。

時々ふっと透明になって、
壁を抜けたり、川から流れて来たり、上から照らしたりしながら。




小川さんの展示場所は、
一階の隅にある、昼なお暗い茶室。

一筆書きの複雑な模様が
障子紙に白いボールペンで描かれ、
小さな窓にはめ込まれている。
窓の下には、大きな石鹸に彫られたあかりの作品。

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展示準備が完了した夜9時前、
あかりの方は照明を落とし、
ほの暗い外光だけが差す茶室に入った。

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障子紙は淡い光を吸収し
描かれた白い線は地よりも一段階、暗い。

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じっと見た後目をつぶってみると、残像がはっきりと見えた。
また目を開く。
闇から闇に出入りしているみたいだ。


明日の朝、
描かれた影はどんな姿になっているのだろう。
雨の日には、夕焼けの夕べには、どんな色になるのだろう。




一階の客間は外廊下が巡っている。
廊下越しの窓からみえる川の中州に
巨大なプリン型の石積みがある。

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滝沢さんが地元の高校生と一緒に川の石を集めて積んだもの。

外廊下に面した窓からそれを見て室内に目を戻すと、
部屋の真ん中に、精緻な油絵がある。

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部屋から見える、外の景色と同じ、
絵の中の空は晴れていて、信号は青。

絵と窓の外が違うのは、
絵の方は、石積みの上に立っているおおきな「モノ」がいることだ。
実際の景色の方に「モノ」はいない。
それ以外の景色があまりにそのままだから、
見続ければ「モノ」のことを考えないわけにはいかなくなってくる。


「モノ」は今は失われてしまっているのだろうか。
いや、これから作られるものなのか、
作られるのではなくて、やってくるものなのか....

窓の外の風景に脳内で「モノ」を立ててみる。
かなり大きい。
埴輪とか、こけしに似ているけど、なにものだかわからない。

「モノ」とはそういうものだ。

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再び部屋に目を戻すと、
油絵の後ろには、各地の土産物がある。
岡野屋のどこかから、滝沢さんが探して来たモノたちだ。
スペインのものもあるし、なまはげもある。
部屋の中に世界中から集まって来て、
宙にとどまっている、記憶の形。

土産物は並べられているから見える。
滝沢さんと高校生が積んだ石積みは見える。
石積みの上の「モノ」は、見えない。


見えないけど、結構考えたから、
私の記憶には「モノ」の痕跡が残っている。

目を閉じてもたしかに見えた、線の影と同じように。



Living in Arts Project
http://livinginartsproject.com/index.html


小川敦生
http://www.turqoiserosco.com/atsuo_ogawa.html

滝沢達史
岡野屋旅館のこと
http://yamamoji.sblo.jp/article/49864023.html

岡野屋旅館のこと 2(もう一つの作品についてのお話)
http://yamamoji.sblo.jp/article/50060711.html

posted by SPIKA at 18:03| Comment(2) | TrackBack(0) |

2011年11月09日

勝山の暖簾


10月の終わりに、
岡山県の真庭市勝山という街に行ってきた。

勝山は、
山陰と山陽を結ぶ主要な街道だった出雲街道にある
白壁や土蔵、格子窓の商家が並ぶ静かな宿場町。

若いアーティストやものづくりをする方々の工房やお店になっている
古民家や商店もある。
街の暮らしを慈しむ空気が、
言葉を交わしあう人の声が、あたたかくて心地よい。

軒先には美しい暖簾(のれん)がかかっている。
この暖簾は、勝山の染色家で、
街の中にある文化施設「勝山文化往来館ひしお」の館長
加納容子さんの工房の作品。
一軒一軒と丁寧に相談して作るんだって、と教えてもらった。

住む人の歴史を語って翻る暖簾の、誇り高さよ...

90軒以上あるそうですが、全部は撮って回れなかった。
でも、いくつかをおすそわけ。

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現在はタバコは扱っていないそうですが、
お店の入り口右側にタバコ屋さんの窓口の名残。
この鳥はPeaceのあの子ですよね。

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きゃー。

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美しさに見ほれる青。

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ポストンの帽子に並ぶ郵便番号は、もちろん勝山のもの。



直島の本村の家プロジェクトの軒先にかかっているのは
実は、加納さんの暖簾なのです。

家プロジェクト
 

posted by SPIKA at 13:46| Comment(2) | TrackBack(0) |
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